◎図書館革命

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◎図書館革命
  --- 図書館戦争シリーズ④
有川 浩
角川文庫


 一気に読んでしまい、それがあまりにもページをめくらせるスピードが加速してしまったので、また一度読み返していた。あとがきによると当初の予定は三作で完結させるつもりが、四作完結となってしまったことに有川浩は恐縮しているが、いやいやシリーズ全体を俯瞰しても私は最高傑作だと思った。

 【原発テロが発生した。それを受け、著作の内容がテロに酷似しているとされた人気作家・当麻蔵人に、身柄確保をもくろむ良化隊の影が迫る。当麻を護るため、郁たち図書隊は一発逆転の秘策を打つことに。しかし、その最中に堂上は重傷を負ってしまう。】

 もちろん郁は堂上との初デートで「やばい、女の子モードに入った」りもしてしまうのだが、『図書館革命』はオープニングから原発テロ現場の緊張感あふれる描写からはじまり、作品内容がテロリストの参考になったとして良化委員会からの追及される作家の当麻蔵人が図書隊に保護されるという展開となる。
 今までの三作はエピソード集の体裁を取っていたが、本作はほぼこのメインエピソードで一気にエンディングまで文字通り疾走する。
 まさにこのシリーズ、いや今までの自衛隊三部作を含めたミリタリーとラブコメの融合という有川浩が目指したスタイルの集大成に相応しい出来栄えとなったのではないだろうか。

 もちろん、このシリーズの通奏低音である“検閲なき表現の自由”というテーマが、今までの「言葉狩り」からさらに「作家狩り」へと発展することで、関東図書隊と良化委員会との闘いがより一層鮮明となっている。
 あらゆる法律や規律は運用次第で無限に拡大解釈され、ひとたびそれが「可」となれば後戻りされないまま定着するという運命にある。「言葉狩り」が「作家狩り」に発展するなどは戦前の例まで辿れば十分あり得る話ではではないか。
 最初は「テロ特措法」による期限付きの立法であっても、期限など際限なく引延ばされ、とくに憲法二十一条の「表現の自由」については、テロリズムなどの特殊事情が勃発すると真っ先に時限立法などで捻じ曲げられる可能性があり、憲法で謳われている「検閲の禁止」も良化法ではないが、「事後の検閲は検閲には当たらない」という理屈は現実にも罷り通っていることではある。検閲を推す側には、検閲で生じる利権を確保しておきたい。これも現実のことだろう。
 「表現の自由」はいかなることがあっても国家権力の介入から守らなければならない。それ故に介入させないように業界が自主規制する。その自主規制が今度は様々な拡大解釈と妙ちくりんな正義を呼び込んで肥大化する。
 根底があやふやな自主規制が権力の介入を招きやすい土壌を作ってしまう矛盾の二重構造を本シリーズは繰り返し訴えてきたのだが、その良化法が制定されたいきさつが国民側の無関心にあったという指摘もなかなか鋭いのではないかと思う。
 確かに業界の自主規制など、業界外の多くの国民は知ったことではない。言葉狩りも作家狩りも本を読まない人にはまるで関係がなく、むしろテロを助長した作家の作品を規制することに「当然、命が大事」とする理屈も十分にあり得るのだろう。
 私自身がこのたびの震災で不安や風評を蔓延させている週刊誌の中吊りなどを見ながら「こんなもの止めさせろ」と何度思ったことかわからない。著名人が週刊誌相手に名誉棄損を訴え、週刊誌側が「読者が知る権利を行使したまでだ」などと主張すると鼻白むこともしばしばで、要は「商売になると踏んだけだろ」といつも思う。
 検閲がこんな一般市民の感情につけ込んでくるというロジックを有川浩はきちんと押さえつつ、メディア側の自己反省として、各局がリレーして表現の自由を世論に訴える「パス報道」を展開させていく。ただ現実にはテレビメディアがここまで気骨のあるところを見せられるものかどうか疑問ではあるのだが・・・。

 さて少々堅い話になってしまったが、作品はどっぷりとエンターティメントを突き進む。柴崎麻子と手塚光のカップルの行方も大いに気になるところではあるのだが、物語は中盤からハラハラドキドキのサスペンスで盛り上がっていく。
 今までは図書館内や資料館、展覧会といった施設内での攻防だったが、今度は台風による激しい豪雨の中、亡命先の大使館を目指して地下鉄半蔵門駅の攻防があり、新宿三丁目から大阪までの逃避行へと舞台が次々と移動する。防衛戦が逃亡戦へと雪崩れ込んで、もはや作品のボルテージは上がり放題だ。
 その過程で堂上が被弾して深手を負う。そこで当麻を託された郁が大阪まで八面六臂の大活躍を見せるのだが、これがなかなか痛快で、次から次へとページをめくらせる力がある。
 カミツレの階級章を託して郁を送り出す堂上。瀕死の堂上の襟首を掴み強引に唇を奪う郁。「あたし、カミツレ返して、堂上教官に好きって言いますから!だから、絶対元気になってください!元気にならなかったら許さない!」昔の東映のオールナイト上映ならばここで「よしっ」と掛け声のひとつも起こるかもしれない。
 確かにトラックの運転手、書店の店長、阪神デパートのおばちゃんと次々と協力者が現れるあたりはご都合主義かもしれない。突っ込みどころも満載で、「そんなアホな」と思うこともしばしばだ。
 しかしエンターティメントにご都合主義はつきもの、何が悪いのだという作家の開き直りぶりも楽しいではないか。この作家は本当にシリーズを三部作で終わらせるつもりだったのかと訝しくなるほど、この最終巻は充実していた。

 大団円では歳月が流れ新人を厳しくしごく“堂上教官”の姿が描かれる。今まで有川浩の著作を読んできて確信した。この人は作中のカップルの行く末をとことん描かなければ気が済まない人なのだろう。しかしそれを「余計なお世話」だなどとは一切思わなかった。
 

 


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