◎穴

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◎穴
小山田浩子
「文藝春秋」三月特別号[平成二十六年]


 第150回芥川賞受賞作品。こうして「文藝春秋」誌に全文掲載された受賞作品は平成18年の下期138回の青山七恵『ひとり日和』以来なので早くも7年目になる。
 その間、どうしても読み切れていない楊逸『時が滲む朝』と黒田夏子『abサンゴ』を含めても15作中10作品が女性作家。しかも4回連続だ。
 すっかり「女流作家」は死語だとしても、今や創作力でも女の方が卓抜しているのが窺える。
 田中慎哉や西村賢太のような苦節○年ではなく、彼女たちはキャリアを軽々と飛び越えて芥川賞作家となっているのだ。

 【仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい―。ごく平凡な日常の中に、ときおり顔を覗かせる異界。】

 正直言うと小山田浩子『穴』は私にはかなりとっつきにくい小説だった。それでも冒頭からしばらくは淡々と日常が展開し、文章も読みやすくてページをめくるペースは悪くなかった。
 夫の転勤をきっかけに仕事をやめて、夫の実家の隣に住むことになった主婦。引越しの時にやたらと仕切る姑。あまりにも日々平凡な日常。
 しかしヒロインはそこに喘いでいる風でもなく、突如現れた掘っ立て小屋の義兄も、コンビニの子供たちも、謎の黒い動物も、穴の中に蠢く虫たちも一応はあるものとして受け入れていく。
 とっつきにくさというのは女の書き手による女からの視点だというのではなく、どうも私には『穴』なる小説の世界観のすべてが「唐突」だとしか思えなかった。
 その最たるは題名にもある「穴」の存在なのだが、こんな風に諸々の事象が唐突に現れてくるのは文学としてはアリでも、どうしても唐突に出てきたものにはその種明かしが欲しいと思ってしまう。
 元々とっつきやすい芥川受賞作の方が珍しいのではあるが、種明かしを要求する時点で私には無理な小説だったのかもしれない。
 おそらく私は種明かしをしてもらってその整合性や意外性に快哉を送りたい読者なのだろう。
 その意味ではとんだ甘チャンな本読みなのだが、日常と異界との境界線に明確な説明を入れないからこそ芥川賞なのだということでもないだろう。
 少なくとも、朝起きたらイモ虫になっていたカフカほどの衝撃があれば、この唐突さにもっと乗れたのかもしれない。


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