◎陽気なギャングの日常と襲撃

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◎陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂幸太郎
祥伝社NON NOVEL


 【人間嘘発見器・成瀬、演説の達人・響野、天才スリ・久遠、正確無比な体内時計の持ち主・雪子。史上最強の天才強盗4人組が巻き込まれたバラバラな事件。しかし突如浮上した「社長令嬢誘拐事件」と奇妙な連鎖を始め…。】

 前作が楽しく、登場人物のひとり饗野氏の薀蓄話が聞きたくて図書館で借りてきた。いやはや図書館で借りた小説を完読するなんて初めての経験なのではないだろうか。
 かつては自室の本棚に読了した本を並べて眺めるのが好きだった。そのうち不純にも本棚に彩りを沿えるためにドストエフスキーやトルストイを買ったのはいいが、数頁読んで挫折して、一応は蔵書面して本棚のこやしになっているものもある。そうなると本当に好きなのは読書ではなく蔵書だったという気もしないでもないのだが、とにかく人から本を借りて読むこと自体が好きではなく、まっさらなページをめくることが普通だった私が、本をもらったり、古本屋に通ったり、ついに図書館で借りるまでに至るとは五十近くなっても変れるものは変れるのだと我ながら感心したりもしている。
 転機は今の狭いアパートに引越しをして、あろうことか「読書道」なるものを始めてしまい、読了した本の置き場がないという物理的難問と、慢性的な貧乏生活になっているという現状。さらに自室の本を何冊か古本屋に売ったときのあまりの安値に悶絶したこと。
 そして一番の理由がこうして読書感想文を書くことが本棚の役目を果たしてくれていて、私の中の蔵書趣向を十二分に満たしてくれているということもいえるだろう。
 それにしてもインターネットで図書の予約まで出来るとは便利な世の中で、勤め先がある新宿区には図書館が何件も在り、予約の順番待ちさえ我慢すれば区内のどの図書館の蔵書でも手に出来るというのだから有り難いことではある。売れた新刊本の文庫化が文字数にかかわらず、薄い上下巻で売られる傾向に腹を立てているので今後も図書館利用は増えそうな気がする。まったくもって出版界には貢献しませんという宣言みたいなもので恥ずかしいのだが。

 さて例によって前節だけで結構なスペースを割いてしまった。
『陽気なギャングの日常と襲撃』はタイトルにあるように「日常」の部分をよりクローズアップし、四人の銀行強盗たちがわいわいがやがやと、くだらない会話をしながら騒動に巻き込まれていくことが本領であると、作者自身があと書きに著述しているように、四人の漫才のような掛け合いだけで乗せられてしまう面白さは前作同様で、肝心の事件そのものはどうでもええと思わせるのも前作同様だった。
 ただ四人の個々に遭遇する事件を扱う短編風のエピソードが、主たる事件の伏線になりきれているのかというと疑問で、単に登場人物の重複であったり、私が好きな饗野氏が顔を突っ込む「幻の女・ノゾミ」は本当に幻のままであったりと、所々に得心の行かない部分があった。


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